『サラブレッド』感想 ネタバレ読んでも楽しめる映画
一見正反対な性格に見える二人の少女が、継父の殺人計画を立てることで密接な関係になっていく…というお話でジャンル的にはサスペンスです。
しかし、少女のセリフやシーンがとてもシニカルなので、ブラックコメディ的な要素も入ってて、ハラハラするけど笑えちゃう映画です。そして最後は口あんぐり・・・結末は賛否分かれるところだと思います。
二人の少女は、『レディ・プレイヤー1』のオリヴィア・クックと『スピリット』のアニャ・テイラー=ジョイが演じるダブル主演。
継父の殺人依頼を受けるティム役には『スター・トレック』のアントン・イェルチ。アントンは2016年に事故で亡くなり本作品が遺作となってしまいました。
サンダンス映画際では観客賞、インディペンデント・スピリット賞では新人脚本賞にそれぞれノミネートされて話題になったので、早速観てきました!(感想の途中からネタバレ含みます。)
写真出典:『サラブレッド』公式サイト
『サラブレッド』作品情報
原題:Thoroughbreds
公開年:2018年
監督: コリー・フィンリー
出演:オリヴィア・クック、アニャ・テイラー=ジョイ、アントン・イェルチ
上映時間:90分
映倫区分:PG12
『サラブレッド』あらすじ
長年疎遠となっていたコネチカット州の富裕層エリアに住む幼馴染のリリーとアマンダ。
リリーは、洗練された上流階級のティーンに成長し、名門校に通いつつ誰もが羨む一流企業でインターンシップも経験済み。一方、アマンダは、鋭い知性を持つ個性的な少女へと成長し、社会のはずれ者となっていた。
一見、正反対の性格に見えた二人だが、アマンダはリリーが抑圧的な継父マークに対し嫌悪を抱いていると悟る。それを契機に急速に仲良くなっていく二人は、お互いがお互いの破壊的な本性を引き出しあうこととなる。
二人のダークな欲望を実現するために、地元のドラッグ売人ティムを雇い、継父の殺害を依頼したのだが・・・
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『サラブレッド』キャスト
オリヴィア・クック(役名:アマンダ)
写真出典:『サラブレッド』公式サイト
強烈な個性を持つ、知的で隠された暴力性を持つ少女アマンダを演じるのは、10才から子役として活躍しているロンドン出身のオリヴィア・クック。
2014年の映画『テスター・ルーム』のジェーン役、最近では2018年のイギリスのテレビシリーズ『Vanity Fair』の主役を好演。
アニャ・テイラー=ジョイ(役名:リリー)
写真出典:『サラブレッド』公式サイト
お金持ちの継父を持ち誰もが羨む環境に置かれているにもかかわらず、どこか満たされない少女リリーを演じるのはアニャ・テイラー=ジョイ。
2015年のホラー映画『ウィッチ』のトマシン役で注目を浴び、2017年の『スプリット』のケイシー役でも話題となる。2020年公開予定の映画X-MENシリーズ『ニュー・ミュータンツ』で主役をゲット。
アニャ・テイラー=ジョイ出演作品
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アントン・イェルチ(役名:ティム)
写真出典:『サラブレッド』公式サイト
前科があり常に虚勢を張っているが自分に自信がない地元のドラッグ売人ティムを演じたのはアントン・イェルチ。
11歳で子役デビューし数々の映画やテレビに出演。テレビでは『ER緊急救命室』、『NYPDブルー』、『HUFF〜ドクターは中年症候群』ではレビュラー出演。2013年、2016年の『スター・トレック 』シリーズのパヴェル・チェコフ役で一躍有名に。
残念なことに2016年に自宅前で自分の車と門に挟まれて死亡。ご両親はダイムラー・クライスラー社のリコール対象となっていたジープ・グランドチェロキーのギア欠陥が原因であったとし係争中だとか。
繊細な演技ができる役者さんだっただけに本当に惜しまれます。27歳の若さでした。
『サラブレッド』感想 ネタバレ含みます
写真出典:『サラブレッド』公式サイト
本作品が監督・脚本デビューとなったコリー・フィンリー。もともと舞台劇のために書いた脚本だそうで、映画のシーンも滑らかなカメラワークに特徴があり通しで舞台を観ているかのよう。
お話の主な舞台はコネチカット州にあるリリーの継父の豪邸。巨大なアンティーク調の屋敷に広大な芝生が敷き詰められた庭。
2台の車タイプの芝刈り機(一般的なのは人が手で押すタイプ)が庭を交差して芝刈りしているショットは、いかにこの家がお金持ちで庭が広大かを数秒で表現してて思わず「うまい!」と思ってしまいました。
豪華な屋敷もなぜか不気味さを醸し出しているのですが、それに一役買っているのが音楽。低い音程のゆっくりなドラム音が、ドキドキさせてくれとてもドラマチック。
写真出典:『サラブレッド』公式サイト
お話は、長年疎遠だった二人が久々に会話をするところから始まります。
アマンダの母親が、リリーに内緒でお金を払ってアマンダの勉強を見てくれるように頼むのだが、アマンダにはそれが全てお見通しなんですね。
勉強ができるリリーの助けが必要なのはアマンダなのに、とっても上から目線。
何を考えているのか、言っていることの何が本当か嘘なのか分かりづらい。人とは決して迎合しない。自分には感情というものがなく、涙なんか練習すればいつでも流せるようになるのよ、と言うアマンダにリリーは次第に魅了されていきます。
そんなアマンダと過ごすうちにリリーの隠された凶暴性やナルシズムが徐々に暴かれていくのですが、その過程が面白い。
女性特有の心理戦というか、例えば映画の中では、どちらが上手に泣きたいときに涙を流せるか、とか、どちらが長く水中下で息を止めてられるか、など。一見、子どもの馬鹿げたゲームに見えますが、常になぜか緊張感があるんです。
そんな心理戦の末、ターゲットを見つけます。それは、リリーのリッチで意地悪な継父マーク。
写真出典:『サラブレッド』公式サイト
マークは、やり手でイケイケなビジネスマンで、エクササイズに夢中な典型的な「サド」タイプ。
義理の娘となったリリーに対して嫌悪感丸出しで、学校を卒業したらもう金銭的なサポートは一切しない、とリリーに告げる。その一言がリリーを怒らせ、マークをこの世から抹殺したいと思うようになるのです。
そこで登場するのが、地元の悪人になりきれない落ちこぼれドラッグディーラー・ティムで、彼が登場することで少しお話に人間味が増してきます。
ティムは、「将来は俺もこんな豪邸に住むぜ」とか恥ずかしげもなく、図らずも知性の低さを露呈するような発言を連発。完璧にリリーとアマンダの食い物にされていくティムに、正直同情してしまいました。
写真出典:『サラブレッド』公式サイト
そのティムの儚さや繊細さを本当に上手にアントン・イェルチが表現してて、改めて彼の死が惜しまれます。
そして、アマンダとリリーが、継父マークの殺害プランを練るたびにクライマックスに向けて豪邸は不気味さと緊張感が増してきます。
ここからネタバレです。
二人はマークを殺害する、という目的は同じでしたが、それはもちろんマークに対して憎しみを持っているリリーが執行しなければ意味がありません。
しかし、リリーが警察に捕まりたいわけがありませんよね。
で、リリーが一体どうするのか??と興味をもって観ていたところ……なんと、マークを惨殺すると同時にアマンダに毒を盛って殺し、それを自殺に見せかける、というもの。つまり、アマンダがマークを殺したことで自殺を図った、という設定にしたのです。
使用した毒はアマンダが以前自分が馬を殺したときに使用した、と言った毒。でも、実際のところ全く毒性がなかったのか(ここはよく分からなかったです。)、アマンダは深い眠りに落ちていただけで生き返るのです。
で、ここでもう1つ驚くのは、実はアマンダはリリーの行動プランを全てお見通しだった!ということ。
最後は、アマンダは警察の精神病院のようなところに居て、なぜか幸せそう。
そして、リリーはマークのお金を相続して更にリッチになってパワーアップしており、偶然町でばったり会ったティムはリリーに恐怖感すら感じるのでした。
最後の最後は意外な結末で、アマンダとリリーのサイコパスぶりに怖くて身震いをしてしまうとともに、お互いがお互いを求め合った二人にとっては最高の結末なのかもしれません。
役者陣も最高ですし、カメラワークも最高!
2度観決定の映画です。
『サラブレッド』は2019年9月27日金曜日より。
『サラブレッド』公式サイト→http://thoroughbreds-movie.jp/
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