映画『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』あらすじ・感想(ネタバレあり)、俳優陣の紹介 なぜ酷評?
2014年『Mommy/マミー』でカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したグザヴィエ・ドラン監督の初の英語での監督作品ということで2018年に注目を集めた映画『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』。ちなみにジョン・F・ドノヴァンは実在する人物ではありません。
「1人の少年との「秘密の文通」によって明かされる死の真相。」という映画予告のキャッチフレーズでサスペンス的なものを期待したのですが、実際はスター、ジョン・F・ドノヴァンと若い少年ルパートのそれぞれの母と子の絆のお話、マイノリティとして生きる人生の苦悩のお話と言ったほうがいいかもしれません。
主演のキット・ハリントンを始め、脇を固めるナタリー・ポートマン、スーザン・サランドン、キャシー・ベイツと言った豪華俳優陣にも関わらず欧米ではかなりの酷評を受けた作品だったので、興味を持って観ました!
『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』作品情報
原題:The Death and Life of John F. Donovan
公開年:2018年
監督: グザヴィエ・ ドラン
出演:キット・ハリントン、ナタリー・ポートマン、スーザン・サランドン、ジェイコブ・トレンブレイ、キャシー・ベイツ
上映時間:123分
映倫区分: PG12
『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』あらすじ
ジョン・F・ドノヴァンは、かつて大ヒットテレビシリーズに出演していたアメリカの人気俳優だが、彼の突然の死から10年が経過していた。若手俳優ルパートは11歳のときにジョンとしていた文通からジョンの回顧録を出版した。
著名なジャーナリストの取材を通し100通以上に渡る文通から、ジョンが当時抱えていた苦悩、母親との関係、死の謎が今分かる・・・
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『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』キャスト
キット・ハリントン(役名:ジョン・F・ドノヴァン)
主人公のジョン・F・ドノヴァンを演じたのは、2011年から8年間続いた『ゲーム・オブ・スローンズ』のジョン・スノウ役で一躍ハリウッドで有名になったイギリス出身のキット・ハリントン。
映画は本作品で7作目。これからますます期待できる役者さんです。
ジェイコブ・トレンブレイ(役名:子供時代のルパート・ターナー)
映画『ルーム』でブリー・ラーソン演じる母親の息子ジャック役で注目された天才子役ジェイコブ。カナダ出身の若干13歳。
本作品では、ジョンと文通をする11歳の少年ルパートを演じています。
ナタリー・ポートマン(役名:サム・ターナー)
ルパートの母親役を演じるのはイスラエル出身のハリウッド女優、ナタリー・ポートマン。
1994年『レオン』でデビュー。1999年から公開の『スター・ウォーズ』でヒロインのパドメ・アミダラを演じ、2004年の『クローサー』のストリッパー役でゴールデングローブ賞 助演女優賞を受賞し、演技の評価も高い。その後、2010年『ブラック・スワン』では、プレッシャーにより徐々に精神的バランスを崩していく難しい役どころを演じ、アカデミー主演女優賞受賞した。
スーザン・サランドン(役名:グレース・ドノヴァン)
ジョンの母親役を演じるのは、ハリウッドの大御所女優スーザン・サランドン、現在74歳!
1975年の『ロッキー・ホラー・ショー』に主演し映画自体も高い評価を受けこの作品でブレイクする。1980年『アトランティック・シティ』で初めてアカデミー主演女優賞にノミネートされ、1995年当時夫であったティム・ロビンスが監督した『デッドマン・ウォーキング』でアカデミー主演女優賞を受賞した。
政治的発言も多く、常に注目を浴びている。
キャシー・ベイツ(役名: バーバラ・ハガーメイカー)
ジョンのマネジメント会社の社長役で登場するのは、ハリウッド大ベテラン女優のキャシー・ベイツ。
1990年の映画『ミザリー』で、有名作家に固執する狂ったストーカーファンを演じ、アカデミー主演女優賞を受賞。その後もコンスタントに毎年映画に出演、現在71歳だが彼女の演技力には衰えがない。最近では、『ビリーブ 未来への大逆転』で主人公をインスパイヤしたベテラン弁護士役で登場。
タンディ・ニュートン(役名:オードリー・ニューハウス)
大人になった若手俳優ルパートをインタビューする著名なジャーナリスト役を演じるのはイギリスの女優タンディ・ニュートン。
1991年の『ニコール・キッドマンの恋愛天国』の主役をオーディションでゲット。1995年『ジェファソン・イン・パリ』で女奴隷を演じ注目を浴びる。
2003年から2年間テレビシリーズ『ER緊急救命室』の準レギュラー、ケイト役で一躍お茶の間に顔を知られるようになる。2005年の映画『クラッシュ』のクリスティン役での演技が評価され、英国アカデミー賞助演女優賞を受賞。
最近では、イギリスTVシリーズ『ライン・オブ・デューティ』シーズン4のロズ・ハントリー役を好演。
『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』感想
本作品は欧米での評価が悪く、The Guardianやindiewireなどの重要な映画批評サイトでは「ドラン監督のワーストナンバー1の作品」などと容赦なく酷評してましたし、アメリカのレビューサイトrottentomatoesではなんと、10点満点中3.55点。
これだけ評価が悪いと、「一体何がそんなに悪かったのか?!」と反対にとても興味が沸いてきてしまう私。早速視聴して来ました!
映画は3つのストリーラインが交錯してお話が進んでいきます。
1つは現在。著名ジャーナリスト・オードリー・ニューハウスが、大人になった若手俳優ルパート・ターナーにインタビューするところからお話は始まります。ルパートは、11歳の頃に当時人気絶頂の29歳で亡くなった俳優ジョン・F・ドノヴァンと実際に交わした文通を本として出版しました。
ルパートが話し始めると他の2つのストーリーラインが交錯します。
2つ目のストリーラインは、ジョンと文通してた11歳の頃のルパートのお話。シングルマザーの母親と一緒にニューヨークから父親の住むロンドンに引っ越してきたのですが、転校生で小柄、そして子役として活動しているため、ルパートはいじめっ子の標的となってしまいます。
3つ目は、主演した連続テレビドラマのヒットで一躍スターになった俳優ジョンのお話。ゲイであることを隠しつつ幼馴染と結婚しており、スーパーヒーローの主役を射止め若い女の子に大人気であるにも関わらず苦悩の毎日を送っている。
ルパートとジョンのお話は主に母親との難しい関係を中心に描かれています。また、ふたりとも俳優であり、多かれ少なかれ常に世間の好奇心の的となっているが故、余計に家族関係が難しくなっているという共通点があります。
ドラン監督は、それぞれの家庭内の苦悩からあぶりだされる家族関係を、例えば、ジョンの母親・ジョンの兄との関係を繊細に描き出すことで、それぞれのキャラクターを掘り下げて魅力的なものとしています。
また、キット・ハリントンの今にも壊れそうな繊細な演技。そして、子役ジェイコブ・トレンブレイの高い演技力も最高でした。
にも関わらず、なぜに本作品『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』はたくさんの酷評を受けなければならなかったのか?
『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』酷評の理由はなぜ?
本作品はドラン監督にとって、7作目。そして英語言語では初めての試み(今までは全てフランス語)ということで、かなりのプレッシャーだったと思います。聞くところによると、もともと4時間の映画だったものを何年もかけて編集し2時間におさめたそうです。
もちろん、どんな映画も多くのシーンがカット編集され1時間半から2時間の映画に仕上がります。つまり、映画自体のキャスト、ストーリーラインはもちろん重要ですが、編集力はとても重要と言えると思います。
私が思うに、ドラン監督はちょっと欲張り過ぎて、いろいろなアイディアを入れすぎてしまったのではないでしょうか?
観客を納得させられなかった、リアリティに欠け過ぎた?
まず始めに、大スタージョンと11歳の男の子ルパートの間で交わされた文通。
実際にドラン監督は少年の頃にレオナルド・ディカプリオにファンレターを送ったらしく、それを元にこの映画のアイディアが浮かんだらしいのです。(実際ディカプリオが返信したかどうかは定かではないですが)
まず、注目して欲しいのが、ルパートがファンレターをジョンに送り、ジョンがそれを読むという奇跡。そして、ジョンが返信を数年間(合計約100通)もし続ける。
ここで、ちょっと視聴者である私に疑問が浮かぶんですよね。
100歩譲って大スターからの1度の返信はあるでしょう。しかし、隠れゲイとして芸能界で苦悩する彼が11歳の子に胸のうちを吐露するようなことってあるでしょうか?? 11歳ですよ。
そこの部分がどうしても納得いかなかったんですよね。
3つのストーリーラインそれぞれは、とてもよく描かれていて、ジョンとルパートが、世間体を繕いマイノリティであるが故に誰からも理解されず孤独に苦しむ様子はストーリーとして説得力があるし、きっと多くの人が共感できる部分だったと思います。
映画の最後の方でジョンが最後の手紙に「いつか僕らの真実を語って欲しい」という日本語訳があるのですが、英語では"No one would understand this friendship until the day you want them to"となっているのですが、もっと噛み砕くと「誰も僕らの関係を理解出来ないだろう、君がみんなに理解して欲しいと思うまで」という訳になると思うのですが、結果、ジョンとルパートの2つのストーリーラインを見終わっても「二人の関係が理解されない、できない」で終わってしまったのが悲しいです。
しかし、ジョンがルパートに与えた影響は、現在の幸せそうなルパート(ゲイとして堂々と生きている)を見ると、それはジョンが生きた証なのかな、と思います。
映画の中のジョンの人生は、キット・ハリントンの演技力によって生かされたのでしょう。あの切ない表情を思い出すと、ジョンが実在したかのような気持ちになりました。
だからこそ、もう少し上手に編集し、お話のメインフォーカスを選びしぼっていたら、全く違ったものになったような気もします。また、「死の謎」という映画のプロモも(実際は「死の謎」というより「死の真相」に近いので)観客の期待を裏切るような形になってしまったために、それが悪評価に繋がってしまったのかもしれません。
皆さんはどう思うでしょうか?ぜひ、『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』を観てみてお友達同士で感想を言い合ってみてください。劇中のアデルの「rolling in the deep」がとても良いムードを醸し出してくれています。
2020年3月13日金曜日から全国ロードショー。公式サイトは『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』。
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