映画『よこがお』深田晃司監督作品 誰にでも起こりうる恐怖 あらすじ、ネタバレ感想
カンヌ国際映画祭の「ある視点部門」の審査員賞を受賞した『淵に立つ』から3年。再び深田晃司監督が、本作品の脚本が出来上がる前に筒井真理子さんに出演オファーをしたということで、筒井さんファンの私としてはワクワクしながらDVDを鑑賞しました。
ちなみに、映画のキャッチコピーは『ある女のささやかな復讐。』
ここでは、映画『よこがお』のあらすじ、キャスト、ラストの結末を含んだネタバレ感想をお届けします。
写真出典:(C)2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS
映画『よこがお』作品情報
公開年:2019年
監督・脚本:深田晃司
出演:筒井真理子、市川実日子、池松壮亮
上映時間:111分
配信元:KADOKAWA
映倫区分:PG12
映画『よこがお』あらすじ
リサと名乗る美しい女が美容師である和道の前に客として現れた。和道の家の向かいに住み彼に接近しようとするリサ。
時間は遡る。リサの本当の名前は市子。
終末期医療の現場で働く信頼されるベテラン訪問看護師で、訪問先の大石家の長女の基子と妹のサキの勉強を時々見てあげたりしていた。
ところが、ある日サキが失踪する。まもなく無事に保護されるが犯人は意外な人物だった。
ある人物の裏切りにより事件への関与を疑われた市子は、今までの生活全てを失うのだった。裏切った人物への復讐のために”リサ”と名乗り和道に近づく・・・なぜ?
©2019YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS
映画『よこがお』キャスト
筒井真理子(役名:市子 / リサ)
写真出典:映画『よこがお』公式サイト
役:終末期医療センターで働く訪問看護師。
山梨県出身、1960年生まれ。
名門、青山学院大学に入学したにも関わらず、早稲田大学演劇研究会”第三舞台”の公演に魅了され、楽屋を訪れて入団希望を訴えるも却下され、翌年早稲田大学を受験しなおし”第三舞台”に入団するというすごい逸話がある。
1997年辺りから数多くのテレビドラマに出演し、特に”金曜エンターテイメント”や”土曜ワイド劇場”などにはかかせない存在となる。
2016年、深田晃司監督・脚本の映画『淵に立つ』が第69回カンヌ国際映画祭で「ある視点」部門の審査員賞を受賞したことで、筒井さんも毎日映画コンクールやヨコハマ映画祭、高崎映画祭で主演女優賞を受賞。
本作品では、芸術選奨文部科学の映画部門で大臣賞を受賞、また、全国映連賞では女優賞を受賞した。
市川実日子(役名:基子)
写真出典:映画『よこがお』公式サイト
役:市子の訪問先患者の孫。大石家の長女。
東京都出身、1976年生まれ。
1994年からモデルとして活躍後、1998年に短編映画『How to 柔術』でスクリーンデビュー。2003年、映画『blue』で初主演し、第24回モスクワ国際映画祭最優秀女優賞を受賞。
主役の脇を固める役者として重宝され、『アンナチュラル』や『イノセンス 冤罪弁護士』、『白い巨塔』、『凪のお暇』などの話題作にも多数出演。
2016年、『シン・ゴジラ』で毎日映画コンクール女優助演賞、第40回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。
池松壮亮(役名:米田和道)
写真出典:映画『よこがお』公式サイト
役:美容師。
福岡県出身、1990年生まれ。
10才の時に劇団四季のミュージカル『ライオン・キング』のヤングシンバ役で子役としてデビュー。
2003年、ハリウッド映画トム・クルーズ主演、渡辺謙出演の『ラストサムライ』でスクリーンデビュー。
2008年、映画『鉄人28号』で主人公・金田正太郎役で18歳で映画初主演。
2014年、TBS/WOWOWテレビドラマシリーズ『MOZU』で双子の殺し屋を一人二役で演じ、第39回エランドール賞新人賞を受賞し一躍有名に。
2018年、映画『斬、』、そして、2019年『宮本から君へ』で主演を務めた。ちなみに2016年公開の映画『だれかの木琴』でも本作と同様、美容師役を演じていた。
映画『よこがお』感想
写真出典:映画『よこがお』公式サイト
本作品で主演を演じる筒井真理子さんは、数多くの作品に出演していらっしゃいますが、映画『愛がなんだ』のような普通の優しいお母さん役を演じることも出来れば、土曜ワイド劇場系でお馴染みな悪女を演じることも出来る素晴らしい技量を持った役者さんです。
彼女の魅力を全て引き出せるのが深田監督だというのは、前回二人がタッグを組んだ2016年の映画『淵に立つ』で証明されましたが、監督はこの女優・筒井真理子さんに惚れ込んだんでしょうね~。今回も脚本を書き出す前から彼女に出演オファーをかけたそうです。
筒井真理子は白いキャンバス
以前、深田監督はインタビューで、筒井真理子さんを”自由で真っ白なキャンバス”とたとえてらっしゃいましたが、つまり、”白いキャンバス=何でも思う存分描ける=何でも演じ分けてくれる”という意味なんでしょう。確かにそうですね。
本作品で筒井さんは、真面目で優秀な訪問看護師・市子と復讐に燃える・リサという1人で二役を演じたわけですが、本当に難しかったと思います。
二重人格を演じるなら、全く別人格なわけですから、ベテラン俳優であればまだそこまで難しくはないでしょうが、今回は周りの圧力によって社会の中で自分の立場が急激に変わっていく中で徐々に苦しむ市子と復讐を決めたリサという、1人の人間の中に存在する二面性を見事に筒井さんは演じていました。
深田晃司監督のストーリー
深田監督の作品のすごさは、キャラクターやストーリーに”無理がない”という点で、日常的な市井の人の目線で描かれているので、すぐにお話にのめりこんでいけます。
市川実日子さん演じた基子などは、この映画の中では一番こわい存在でしたが、こういう人って普通にいるんですよ。
基子は、勝手に市子に恋焦がれ、市子に婚約者がいると分かった途端に市子を裏切って、リポーターたちに市子が基子だけに話したちょっとした秘密の話をしてしまう、という自己中極まりない人間。
*ここからネタバレです。
サキを誘拐したのは、結局市子の甥っ子だったわけですが、妹の子供であり一緒に住んでいるわけでもなく、彼女には何の責任もないはずです。しかし、基子の”嫉妬心”により事実が捻じ曲げられて世間に公表されてしまいます。
誰にでも起こりえるという日常に潜む恐怖
この”ちょっとした秘密”というストーリーラインが怖かったです。
市子が、甥っ子が幼い時に、妹の家で甥っ子と一緒に夜泊まった翌朝彼の性器が立っているのを布団をめくって見てしまった、と基子に笑いながらうちあけるシーンがあるのですが、それはまさに”ちょっとした好奇心からしてしまった悪意のない行為”です。甥っ子はまだ幼かったわけですし、性的いたずらとは程遠いものです。
しかし、それを基子がメディアに公表したことで、市子はかっこうのエサとなり執拗に追い回されたことが原因で職を失い、婚約者を失い、住処も失い、彼女の人間らしい暮らしというもの全てが奪われてしまうのです。
何度も言いますが、真面目に怖いです。
基子は自分を慕う年下の妹みたいな存在だったのに、彼女に裏切られこうなってしまう。
改めて思いますが、映画の背景が自分にも起こりえるシチュエーションだから怖いのです。
時間軸が交錯しながら
物語は、まずリサを装う市子がリサとして和道に近づくところから始まるわけですが、少しすると市子がまだ大石家で訪問看護師をしていた頃に場面が変わり、時間軸が交錯しながら物語りは進んでいきます。
当初、視聴者の私はリサと市子の関係性が分からなかったので、リサが和道の住む向かいのアパートの窓から和道の部屋の様子を窺っているのをみて、思わず、池松壮亮が美容師役でストーカーされてしまう映画『だれかの木琴』を思い出したのですが、ストーカーとは少し事情が違います。復讐ですから。
復讐心に燃えているリサは、人間らしい暮らしが奪われている状況なのですが、それを上手に表現したのが、”犬の行動”です。結局それは市子が寝ているときにみていた夢だったわけですが、真面目に怖かったですううう!
いきなり、市子が和道のアパート近辺で犬のように四つんばいになって「ワンワン」と言いながら歩いているのですから!!それも、可愛い「ワンワン」ではなくて、本物の犬っぽい「ワンワン」です。←ここ重要!
思わず「えっ!何!どういうこと!怖い怖い!」と言ってた私。
深田監督いわく、市子が”人間らしい暮らしを奪われた心境”を表現したかったそうですが、素晴らしい!の一言です!市子がどれだけストレス下にあるのか、彼女の苦悩や痛みが理解できたシーンでした。
復讐できたのか?
人生を奪われた女の哀しく危険な復讐、という映画コピーですが、見終わってみて、市子は結局復讐できたのかな??って考えてしまいました。
確かに復讐するべく基子の彼氏である米田和道を寝取ろうとするわけで、結局寝取るわけですが、二人はもうとっくに別れていたので復讐にはならなかった。
でも、ある意味、市子は復讐心があったからこそ辛い中生きることが出来たのかも知れません。その証拠に自分の復讐に意味がなかったと分かったその後に自殺を試みます。
でも、ここで終わらなかったのがさすが深田監督です。
映画『よこがお』ラストシーン
池松壮亮さんが脚本のラストシーンで出演を決めた、と言っていた場面ですが、市子は、以前復讐に燃えた相手基子が偶然目の前の横断歩道にいるのを車中で目撃してしまうのです。
自分の人生を台無しにした人物が、仕事を持って(なんならかつて自分が勉強を教え資格を取る手助けをした)日常を暮らしているのを見て、自然に足元のアクセルを踏み込み、そして車が動き出します。
すると、横断歩道の曲が流れ、ハッと我に返る市子ですが、その後クラクションを大音量で鳴らすのです。
このクラクションの「びーーーー」という長い長い音が市子の心の叫びだったような気がして、何とも言えない哀しい気持ちになりましたが、不思議と絶望感はなかったのです。
人間って結局は孤独なんだってことを受け入れてしまうと、とても強いということ。
市子はこれからも潔く生きて行くような気がします。
映画『よこがお』は、DVD&Blu-rayでご覧になれます。
参考: https://www.nippon.com/ja/japan-topics/c03039/?pnum=2
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