映画『マーウェン』なぜか癒される 実在する人物のお話

2019年7月2日

『マーウェン』

『フォレスト・ガンプ/一期一会』を監督したロバート・ゼメキスが再び美しいヒューマンドラマ映画『マーウェン』を製作、そしてスティーブ・カレル主演ということで、早速鑑賞して来ました。

正直、アメリカ人批評家によるこの映画のレビューはけちょんけちょん・・・"Box Office Bomb"=興行的に大失敗、ということだったのですが、お話が実在する人物を基に描かれたものということで、PTSDを負って記憶を無くしてしまった彼がどうやって自分の中に幸せをみつけることができたのか?にとても興味があったので、この映画は私にとってはマストな映画でした。

写真出典:『マーウェン』公式サイト ©2018 UNIVERSAL STUDIOS

『マーウェン』作品情報

原題:Welcome To Marwen

公開年:2018年

監督:ロバート・ゼメキス

出演:スティーブ・カレル、レスリー・マン、ダイアン・クルーガー、メリット・ウェバー

上映時間:116分

映倫区分:G(中学生以上のお子さんでしたら十分楽しめると思います。小学生には少しコンセプトが難しいかもしれません。)

『マーウェン』あらすじ

ある日バーの中で「自分は女性の靴を履くのが好きなんだ」と言ったことから、数人の男から暴行を受け、瀕死の状態をさまよい9日間こん睡状態に陥った。事件前の記憶をほとんど無くし脳に障害が残ったマーク・ホーガンキャンプ(スティーブ・カレル)。

PTSDに苦しむが薬も効かないほど心に深い傷を負う。そんな時、セラピーの一環として空想の世界「マーウィン」を自宅に作りミニチュアフィギア写真撮影を始めたところ、その写真が高い評価を受け個展開催にこぎつける。空想の世界「マーウィン」の人々から勇気をもらい、暴行事件の裁判に証人として出廷することになるが・・・


[c] 2018 UNIVERSAL STUDIOS

『マーウェン』キャスト

スティーブ・カレル(役名:マーク・ホーガンキャンプ)

主役のマーク・ホーガンキャンプを演じ、架空の世界「マーウィン」の主役キャプテン ホギー(Cap’n Hogie)の声をしているのは、スティーブ・カレル。

映画『40歳の童貞男』の主演でブレイクスルーするまでは、コメディ・ニュース番組『ザ・デイリー・ショー』に出演しており、俳優と言うよりはコメディアンとしての活躍が目立っていたが、『40歳の童貞男』が興行的にも大成功を収め、テレビシリーズ『ザ・オフィス』では、ゴールデングローブ賞・俳優賞を受賞した。

ちょっと前まではコメディアンという印象が強かったスティーブですが、今ではすっかりシリアスも出来る演技派俳優となりましたね。日本で2019年4月に公開された『ビューティフル・ボーイ』では、薬物中毒に苦しむ息子をサポートする父親役を熱演してました。

レスリー・マン(役名:ニコル)

『マーウェン』
(C)2018 UNIVERSAL STUDIOS

主役のマークの家の向かいに1人で引っ越してきた女性ニコル。(Nicol・・・劇中では「変なスペルでNicoleのEがないNicolよ」と言ってます)マークはニコルにほとんど一目ぼれし、赤い髪のバービードールを早速購入し、彼の空想世界「マーウィン」に登場させる。

そんなニコルを演じるのは、コメディアン・女優のレスリー・マン。あの甲高い声が特徴で、レスリーはジム・キャリーの映画『ケーブルガイ』で世間に知られるようになり、その後も数多くの作品に出演。スティーブ・カレルとは、映画『40歳の童貞男』でも共演しています。

ダイアン・クルーガー(役名:デジャ・ソリス)

架空の世界「マーウィン」に住んでいるベルギーの魔女デジャを演じているのは、ドイツ出身のダイアン・クルーガー。

彼女のキャリアはファッションモデルとして始まっており、イブサンローラン・シャネル・アルマーニ・ジルサンダーなどの有名ファッションブランドのモデルを務めたり、ファッション雑誌、ボーグやマリ・クレールの表紙にも登場。演技学校で学んだ後にテレビ映画に出演、その後『トロイ』でハリウッド進出を果たす。『ナショナル・トレジャー』でニコラス・ケイジの相手役を務め一気に知名度が増す。代表作は『女は二度決断する』でカンヌ国際映画祭で女優賞を受賞した。

ゴシップ好きの私は、ダイアンと言うとジョシュア・ジャクソンの彼女という印象があるのですが、10年も一緒にいたのに別れちゃったらしく、映画”Sky”で共演した俳優のノーマン・リーダスとの間に去年女の子をもうけたというニュースを聞き、ジョシアが好きだった私はちょっとショック。

メリット・ウェバー(役名:ロバータ)

主人公マークの友人。マークの架空の世界「マーウィン」に登場させるフィギュアなどを購入するホビーショップで働いており、マークに優しく密かに思いを寄せる。また、ロバータは「マーウィン」にもキャプテン・ホギーのチームの一員としてフィギアとして登場。

メリット・ウェバーの代表作は何と言っても『ナース・ジャッキー』。2009年から2015年の間7シーズン続いたコメディドラマで、主人公のドラッグ中毒の看護師ジャッキー・ペイトンを演じて大人気に。この作品でエミー賞を受賞している。

また、Netflixドラマ『ゴッドレス -神の消えた町-』でメアリー・アグネス・マクニュー役を演じ、エミー賞助演女優賞を受賞。

『マーウェン』で癒される

『マーウェン』
(C)2018 UNIVERSAL STUDIOS

『マーウェン』は確かに賛否両論分かれる映画だと思いますし、分かりづらい映画かもしれません。それが、興行的に成功しなかった一因かも知れませんが、私は観ている間に『マーウェン』に癒されてしまっていることに気づいたのです。

『マーウェン』は映画の主人公と同名の人物、マーク・ホーガンキャンプに実際に起こった出来事を基に描かれています。

マーク・ホーガンキャンプに実際に起こった事件

ある日、マークがバーでお酒を飲みながら「女性の靴を履くのが好き」と言ったことで、そこに居合わせた数人の男に暴行を受け重症を負います。9日間こん睡状態に陥って目を覚ますも、脳にダメージを受け事件前のほとんどの記憶を無くしてしまいます。1度目の結婚、ガールフレンド、家族、海軍時代、アル中、ホームレス、服役・・・いいことも悪いことも含めてほとんどの記憶を無くし、食べ方・歩き方・考え方の全てを38歳で学びなおさなければなりませんでした。また、精神的にもダメージを受けPTSDに苦しむことになります。

セラピーに通うお金もなく、自分自身で見つけたセラピー。それは、架空の世界を作ることでした。

第二次世界大戦のアクションフィギアとベニヤ板で作った世界を「マーウィン」と名付け、バービー人形の仲間たち一体一体にも名前とキャラクター付けをします。舞台は第二次世界大戦のベルギー。メインキャラクターはG.I.ジョーのキャプテン・ホギーと5人の女性アーミー軍団でナチスと戦うというお話を、古い壊れかけのペンタックスカメラで何千枚と撮り始めます。

実際にマークは映画の中のマークのように、メインキャラクターたちをミニチュアジープに乗せて買い物などにも連れて行っているそうで、それが写真家・デイビッド・ナグル(David Naugle)の目に留まり、アート雑誌に掲載されることとなったのです。そして、そのアート雑誌を購読しているプロデューサー、ジェフ・マルムバーグ(Jeff Malmberg)によって『Marwencol』*がドキュメンタリー映画として発表されました。

*『Marwencol』のサイトでは現在もマークによる作品が随時アップされています

『マーウェン』は箱庭療法

『マーウェン』
(C)2018 UNIVERSAL STUDIOS

映画の中でも強調していましたが、容疑者たちはナチスの刺青を入れた白人至上主義者たちでヘイトクライムによるものです。

マークは女性の服や靴を履くのが好き、いわゆる「クロスドレッサー」です。それを攻撃対象として考えてしまう偏った考え方を持っている人がこの世の中にいるという悲しい現実。(ちなみにクロスドレッサーはゲイではありません。セクシャリティとは全く関係がなく、女性の服や靴を着つつも男性として女性を好むというもので、それは変装やコスプレが好き・安心感が得られる・自己表現の一つ、などが理由として捉えられています。)

マークがどうして架空のミニチュア世界「マーウィン」を作ろうと思ったのか?そこになぜバービー人形たちを登場させることにしたのか?については、いろいろ調べてみましたが詳しい理由や動機を見つけることができませんでした。

マークはもともとアーティストでスケッチなどがとても上手でしたので、その本来のアートな才能が本能的にマークに行動させたのかも知れません。


(C)2018 UNIVERSAL STUDIOS

映画は現実と架空の世界を交互に行ったり来たりします。映画を観ていてふと感じたのですが、架空の世界「マーウィン」を見ていると不思議と心が軽くなるんですよ。
「マーウィン」で起きることは、現実と何ら変わりない厳しい辛いことが起きるのです。仲間が死んだり、キャプテン・ホーギーが拷問されてたり。
でも、視点を変えてその辛い事件を俯瞰的に第三の眼で見ることで、すごく辛いこともそんなに辛く感じない。ワンクッション置くことで、人形たちを通して見ることで「そんなに辛いことでもないのかも」という気持ちにさせてくれるのです。

また、「マーウィン」という世界を作りフィギア人形たちでストーリーを作ることで、言葉にならない葛藤をメージし表現できたのでしょう。きっとマーク自身も気がついていなかった自分の心身の状態や動きを直接的に感じ、心の中の自分と向き合い自問自答することに通じ、結果それが事件で重症を負ったという彼の歴史を全て受け入れるということに繋がったのではないでしょうか?

ドキュメンタリー映画『Marwencol』はマークのノンフィクションのお話ですが、この映画『マーウェン』は見方を少し変えることで、観客だれもが抱える課題「本来の自分でいる」「自分を愛して生きる」ということの方法を見い出してくれる助けになるのでは、と思います。

参考:The New York Times