映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』徹底解説!あらすじ、感想 

2021年9月1日

映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』

太宰治の遺作小説『人間失格』がどのように書かれたのか、太宰治を取り巻く3人の女性の目線から描かれた事実を元にした蜷川実花監督のフィクション映画です。文豪・太宰治を小栗旬が、妻・美智子役に宮沢りえ、「斜陽」のモデルとなった太田静子役を沢尻エリカ、そして太宰と最期に心中した山崎富栄役に二階堂ふみが体当たりの演技を見せています。

ここでは、映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』を観た感想、あらすじ、キャスト、そして史実にどこまで忠実に描かれているのか?などについてもお話します。

写真出典:Amazonプライム

『人間失格 太宰治と3人の女たち』作品情報

公開年:2019年

監督:蜷川実花

出演:小栗旬、宮沢りえ、沢尻エリカ、二階堂ふみ、成田凌、千葉雄大、瀬戸康史、高良健吾、藤原竜也

上映時間:120分

配信元:松竹、アスミック・エース

映倫区分:R15+

『人間失格 太宰治と3人の女たち』あらすじ・感想

正直なところ、蜷川実花監督の前作品『ヘルタースケルター』が、いまいち私の好みではなかったので、期待はしてなかったのですが、私は又吉直樹のファンになったことがきっかけで太宰治という人間に興味を持つようになったので小栗旬演じる太宰がどんなものか、Amazonプライムで観てみました!


© 2019 『人間失格』製作委員会

3人の女性の1人ー太田静子

沢尻エリカ
写真出典:『人間失格 太宰治と3人の女たち』公式サイト

『人間失格 太宰治と3人の女たち』は、文豪・太宰治の作品『斜陽』が連載された1947年前後からお話は始まります。
『斜陽』は没落していく上流階級の女性を主人公にしたお話でそのモデルとなった人物は、もともと太宰治の作品の読者で太宰に自分が書いた日記文を送った太田静子。

大田静子は、開業医の娘で実家は九州の大名というお家柄。リベラルで夢見がちな華族の女性を沢尻エリカが演じたのですが、ぴったりで名キャスティングだと思います。彼女の美貌はもちろん、高貴で奔放な感じが私の太田静子像にはまりました。

太宰は、すでに深い付き合いであった静子の日記文を小説の題材として使いたい、と依頼し、それを元に書かれたのが、大ベストセラーとなった『斜陽』。その後、静子は太宰の子を身篭り未婚の母となります。(後に太宰は子供を認知し、自分の名前の一文字を取って大田治子と名づけました。)

三人の女性の1人ー山崎富栄

二階堂ふみ
写真出典:『人間失格 太宰治と3人の女たち』公式サイト

そして、同時期に太宰と知り合ったのが山崎富栄。彼女も、日本最初の美容学校の設立者の娘、という、恵まれた環境のお嬢さん。父から美容技術を学んだほか、英語を聴講生として慶應義塾大学で学ぶなど頭が良く、当時の彼女の写真↓などを見ても丸いメガネをかけたかなり地味な女性。この地味な女性が太宰との恋に狂い、太宰と入水自殺をします。

山崎富栄

その富栄を演じたのが二階堂ふみ。富栄は、太宰と付き合うようになってだんだんと妖艶になって、偏った愛に溺れ狂気すら感じるのですが、その変化を二階堂ふみが見事に演じていました。

三人の女性の1人ー正妻・美智子

宮沢りえ
写真出典:『人間失格 太宰治と3人の女たち』公式サイト

3人目の女性は、もちろん太宰治の妻・美智子。太宰は多くの女性と浮世話を流し、自殺未遂を3度も繰り返し、酒とタバコと薬に溺れていたにも関わらず、3人の子供をもうけ最期まで離婚することはなかった忍耐人。そんな女性を演じたのは宮沢りえ。

美智子の正妻としての貫禄・虚勢、一方で富栄の存在を知り嘆き苦しむ美智子。だけど、全く作品が書けずに苦しむ太宰に「壊しなさい。私たち全てを壊しなさい。そして書きなさない。」と言うと、太宰は「人間失格」を書き上げます。結局、美智子は太宰には無くてはならない女性だったのでしょう。太宰の遺書には、「美知様 お前を誰よりも愛していました」と記されていたそうです。

史実にどこまで忠実か?

映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』
写真出典:『人間失格 太宰治と3人の女たち』公式サイト

私も太宰に魅了された一人として、太宰のありとあらゆるウェッブ資料を読み漁り、彼の人格像がおぼろげに分かってきてたのですが、映画の太宰は私の思ったとおりの太宰でした。

映画の中で、彼は編集者や友人の坂口安吾などには大口を叩きますが、一方で「斜陽」が志賀直哉に読まれもしなかったことで、かなり傷つきます。実際のところ、太宰は、内心は世間の評価をとても気にする意外と凡人的な部分も持ち合わせた人間だったのではないでしょうか。

これは映画の中では触れられてなかったですが、太宰治は結局文芸賞は何も受賞していません。当時、彼の芥川賞への執着はすごかったようで、選考委員だった作家の佐藤春夫に芥川賞受賞を懇願する手紙を何通か出しています。うち1通は何と!長さ4メートルにもわたるもの。

「こんどの芥川賞も私のまへを素通りするやうでございましたなら、私は再び五里霧中にさまよはなければなりません。」「第二回の芥川賞は、私に下さいまするやう、伏して懇願申しあげます」「佐藤さん、私を忘れないで下さい。私を見殺しにしないで下さい」昭和11年1月28日付

芥川賞は「無名あるいは新人作家」という規則があり、すでに作品を発表していた太宰は新人には該当せず選ばれることはありませんでした。

佐藤は、手紙を受け取り’正気の沙汰じゃない’と感じ、精神病院へ入院させたそうです。当時、太宰は、腹膜炎を発症したときに処方されたパビナール(麻薬性鎮痛剤)を常習しており、中毒症状でおかしな言動や行動をしていた、という見方が強いです。

しかし、これだけ賞を欲しがったということは、作家は誰でもそうなのかも知れませんが、やはり承認欲に飢えていたのかもしれません。

何度も繰り返す自殺行為

映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』
写真出典:『人間失格 太宰治と3人の女たち』公式サイト

映画の出だしは、田部シメ子と思われる女性と入水自殺をしようとし、シメ子だけが死亡し太宰が生き残るシーンからスタートしています。この自殺未遂は、太宰にとっては4度目で、富栄とした入水自殺が5度目でした。

太宰の第一声が「あー、危なく死ぬところだった」というもので、笑えます。
やはり、というか太宰の自殺行為は死ぬ気ゼロなんですよね。

編集者たちがお酒の場で太宰のことを「小説のねたのためにしている」と言っている場面がありましたが、どうやらそうだったみたいですね。

女性との数多くの恋も自殺未遂も全て小説のため。文章を書く際に、経験したことを書くのと想像で書くのとでは、リアリティ感が全く違ってきます。執筆も絶対に経験したことを書くほうが筆がのって楽です。

最期、太宰が水の中でハッと目を覚ましたシーンで終わるのですが、あー・・・・死ぬつもりは無かったのかなー。と思ってしまいました。

確かに、妻・美智子に遺書は残していますが、それもセルフプロデュースのひとつ。太宰は、決して死ぬつもりは無かったと思います。映画の中でも、ぎりぎりまで富栄に「二人で行きよう」と言っていますので、監督も太宰は死ぬつもりはなかった、というセオリーに一票を投じたのでしょう。

太宰は、孤独だからこそ、創作の苦しみに常にあえいでいたからこそ、自殺行為を繰り返したのでしょう。

正妻との3人の子供たち

映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』
写真出典:『人間失格 太宰治と3人の女たち』公式サイト

太宰は、妻・美智子との間に3人の子供がいます。長女・佑子、長男・正樹、そして太田静子との間の認知した子供・治子ですが、長男の正樹役はダウン症を患っている子が演じていたので調べたところ、実際に正樹君はダウン症で15歳のときに肺炎で短い生涯を閉じています。

長女津島佑子はのちに手記「山のある家 井戸のある家」で次のように記述していることからも裏づけられました。

15歳―やっと口で簡単な意思表示ができ、ごく限られた文字と数字が書けるようになっていました。

ちょっとした痛みに襲われたりすると、兄はもう私の手には負えなくなりー

ダウン症の設定を変えても良かったのではないか?
事実に近づけたかった監督の思いもあったのかもしれませんが、観ている私たちにある一定の想像を持たせてくれたのは確かです。

ダウン症を患ったお子さんを抱えている家族というのは、やはり大変だと思います。太宰と美智子の苦悩のようなものがシーンから伝わってきました。しかし、インクを佑子と正樹と母親で顔に塗りたくるシーンなどは、太宰が去って富栄の影を美智子が感じる悲しい場面だけど、何か救われた気持ちにもなりました。

映像美

映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』
写真出典:『人間失格 太宰治と3人の女たち』公式サイト

映画の中の映像は、「美しかった」の一言です。さすが写真家であるだけはあり、蜷川実花独特のあのヴィヴィッドな色彩画像は最高でした。

ただ、太宰が結核を煩い吐血をしたときの血の色がだいぶ赤過ぎて鮮明過ぎて、’ジョーカーみたい・・・’と思ってしまったのは、私だけでしょうか・・・・

そして、もう1つの映像美と言えば、そろいにそろったイケメンたち。
太宰治の担当編集役に成田凌、大田静子の兄弟役に千葉雄大、作家・伊馬 春部役に瀬戸康史、三島由紀夫役に高良健吾、そして坂口安吾役に藤原竜也といった具合にイケメンぞろいであります。小栗旬クラブの面々という気もしますが。

この映画が公開中に沢尻エリカが薬物所持で逮捕され公開中止になるかも、と誰もが心配したと思いますが、配給側が公開中止にしなくて本当に良かったです。

最後に、カリスマ性に溢れ、色気があった太宰治は小栗旬のはまり役と言っても過言ではないでしょう。

ぜひ、Amazonプライムでご覧ください。