映画『リトル・ジョー』あらすじとネタバレ感想 花によって支配されソシオパスとなる

2021年9月1日

第72回カンヌ国際映画祭で話題を呼んだ映画『リトル・ジョー』を視聴しましたが、面白かったです!
ジャンルはホラーですが、SF要素とメッセージ性がある物語で、観る人それぞれで色々な感じ方が出来、また音楽もビジュアルも魅惑的でなんとも言えない不気味さが漂っていました。

主演は、本作品でカンヌ国際映画祭コンペティション部門女優賞に輝いたエミリー・ビーチャム、その息子役に『ロケットマン』のキット・コナー。

ここでは、映画『リトル・ジョー』のあらすじ、キャスト、そしてネタバレ感想をお届けします。

写真出典:映画『リトル・ジョー』公式サイト

映画『リトル・ジョー』作品情報

原題:Little Joe

公開年:2019年

監督・脚本:ジェシカ・ハウスナー

出演:エミリー・ビーチャム、ベン・ウィショー、ケリー・フォックス、キット・コナー

上映時間:105分

配給:ツイン

映倫区分:G

映画『リトル・ジョー』あらすじ

バイオ企業で新種の花の開発に取り組む研究者のアリス(エミリー・ビーチャム)は、離婚し息子のジョー(キット・コナー)と二人で暮らすシングルマザー。
アリスは、品評会に出展する新しい花の開発に成功しつつあった。その花は、抗鬱効果があり幸せをもたらすという真紅の花。暖かい場所で育て、毎日かかさず水をあげ、花に話しかけて愛することでよく育つというもの。

仕事に夢中で息子に罪悪感を感じていたアリスは、会社の規定に反し、息子・ジョーに花を一鉢プレゼントする。するとジョーは、“リトル・ジョー”と命名された花の花粉を吸ったことで、母親に対して冷たい行動をとり始める。

また、アリスの同僚ベラ(ケリー・フォックス)の愛犬が一晩リトル・ジョーの温室に閉じ込められて以来、様子がおかしいというベラ。アリスの助手、クリス(ベン・ウィショー)もリトル・ジョーの花粉を吸い込んだ途端、行動がいつもと違う。

原因は”リトル・ジョー”の花粉なのか・・・

映画『リトル・ジョー』キャスト

エミリー・ビーチャム(役名:アリス)


写真出典:映画『リトル・ジョー』公式サイト

役:バイオ企業で新種の花の開発をしている研究者。シングルマザー。


イギリス・マンチェスター出身、1984年生まれ。

2007年、『28週後』で長編映画デビュー。2009年、テレビドラマシリーズ『アンフォーギヴン 記憶の扉』、2012年、テレビドラマ『ケース・センシティブ 静かなる殺人 』、2016年、ヘイル、シーザー!など数々の作品に出演。

本作品で第72回カンヌ国際映画祭女優賞受賞を果たす。

ベン・ウィショー(役名:クリス)

映画『リトル・ジョー』
写真出典:映画『リトル・ジョー』公式サイト

役:アリスと共に新種の花の開発をしている研究者。アリスに好意を寄せる。


イギリス出身、1980年生まれ。

英国王立演劇アカデミーを卒業。2005年公開の『ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男』でキース・リチャーズを演じ話題となる。2007年、映画『パフューム ある人殺しの物語』の主演に抜擢。2012年、映画『007 スカイフォール』にて、ジェームズ・ボンドを支えるQ役を演じ、一躍世界的に有名に。

2018年、ヒュー・グラント主演のテレビドラマ『英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件』でヒュー・グラント演じるジェレミーの元恋人役を演じ、ゴールデングローブ賞ドラマ部門助演男優賞、そして、エミー賞助演男優賞も受賞した。

キット・コナー(役名:ジョー)

役:アリスの1人息子。


ロンドン出身、2004年生まれ。
2019年、エルトン・ジョンの伝記映画『ロケットマン』でエルトン・ジョンの少年期を演じた。

映画『リトル・ジョー』ネタバレ感想


写真出典:映画『リトル・ジョー』公式サイト

*ネタバレ含みます。

なんとも不気味なお話でしたが、映画としてどうだったのか・・・この手のお話だったら「世にも奇妙な物語」でもありそうです。しかし、カメラワークや押さえ込んだ演技、そして映画全体を通してビジュアル的にアートな雰囲気が漂っており、また、映画作曲家の故伊藤貞司氏の音楽・・・

それらを考慮してよく考えると、確かに「世にも奇妙な」と比べるのは申し訳ないような気にもなります。そして何より観終わって「良かったね~。」という一言が自然に出たのは間違いないです。

お話のキーポイントは、アリスがバイオ企業で開発している新種の花”リトル・ジョー”。自分の息子ジョーの名前にちなんで名づけました。この花は、なんと抗鬱効果があり幸せをもたらすという真紅の花。

花を育てる上で気をつけなければいけないことは、1.暖かい場所で育て、2.毎日かかさず水をあげ、3.花に愛情をもって話しかける、というもの。そして、この花の抗鬱効果はどうやら花粉に含まれているらしいのです。

幸せをもたらす真紅の花

リトル・ジョーは、抗鬱効果があり幸せをもたらすという真紅の花ですが、花粉を作らない性質(雄性不稔)に人工的に作られているので、本来ならば花粉を作らないはずです。それなのに、花粉をばら撒き始めます。これを天才研究者ベラは、植物のサバイバル力だと言います。

その花粉を吸い込んだ人々は、表面では通常と同じに振る舞い、一見何も変わっていないように見えます。

まず初めに花粉を吸い込んだのはクリス。
確かに幸せをもたらす、というだけあって花粉を吸って以来、少し自信があるように見え、その証拠に好意を寄せていたアリスにアタックし始めます。

次に花粉を吸い込んだのはベラの犬。
一晩リトル・ジョーの研究室に間違って閉じ込められてしまって以来、自分のかつての犬ではないと確証するベラ。

そして、次に吸い込むのは、アリスの息子ジョー。
アリスは仕事に熱心で料理も得意でないので、ジョーに何もしてやれてないと常に罪悪感を抱えていたので、会社のポリシーに反してジョーに花をプレゼントします。
母親のアリスに言われたとおりに、リトル・ジョーに話しかけ、水をやっている最中にジョーは花粉を吸い込みます。

その日を境に様子がおかしくなるジョー。母親に対して冷たくなり、そして、父親と一緒に住みたいと言い出す。

奇妙なモノ


写真出典:映画『リトル・ジョー』公式サイト

確かに、人間は成長と共に変わって行きます。私の父が大人になった私に「昔は素直で可愛かったのになぁ」と言ったことと同じなのかもしれません。

ハウスナー監督はこう言ってます。

「私たち人間には、“奇妙なモノ”が突然生まれ、親しんでいたはずの人が突然、別人に思える。身近だと感じていたものほど遠く離れてしまうことがあります。本作は、人の中に存在するその“奇妙なモノ”の比喩といえるでしょう。人を変えてしまう“リトル・ジョー”によってそれは具現化されています」
引用:映画『リトル・ジョー』公式サイト

ソシオパスとなる

しかし、この”リトル・ジョー”の効果は、ただ単に成長に伴う性格の変化とは違うようです。

花粉を吸い込んだことでキャラクターたちに起こる微妙な変化ですが、分かりやすいのがアリスがジョーを学校に迎えに来たシーン。

アリスが車から降りて、学校の前で友人たちと話すジョーを見つけます。目が合ったので(確実にジョーは母親に気付いています)アリスはジョーに手を振ります。ジョーは、アリスの方に歩いてくるかと思いきや、冷酷な表情で完全無視して通り過ぎますが、少し後になって車の中でボーゼンと座っているアリスのもとに戻って来て「母さんが来ているの気付かなかったよ。」と言うのです。

この一連の行動は、ジョーが完璧に自己中心的になってきており、でも少しやり過ぎたかもしれないから表面を取り繕うため戻ってきた、といえるでしょう。

別のシーンでは、アリスが”リトル・ジョー”を死なせるべく温室の温度を下げたのですが、それに気付いたクリスがアリスから温度計の鍵を奪ばおうとアリスを殴って気絶させてしまう、という場面があります。

それも”リトル・ジョー”によって性格が反社会的な暴力行動を取ってまでも”リトル・ジョー”を守るという人間になってしまった、といえると思います。どうやら”リトル・ジョー”は、人間たちの思考を支配し始め、”リトル・ジョー”だけを愛する冷淡で自己中心的人間にしてしまっているようです。

ここで、ふと昔の映画、正体不明の生命体に肉体を乗っ取られる『SF/ボディ・スナッチャー』を思い出しましたが、違うのは”面体を繕うのが上手”というソシオパス的な人間になってきているという点。

”リトル・ジョー”はあなたを幸せにする?

”リトル・ジョー”は現代社会を象徴しているような気もしました。

「ちょっとブルーなんですよね~」と言い、医者の前で泣き出したりしようものなら、人工的に作られた抗鬱剤が簡単に処方されます。(もちろん、自殺リスクがある患者にそれらの薬が短期的使用されるのならいいと思います。

抗鬱剤を飲むと確かにネガティブな感情がぬぐわれ泣いたりといった感情表現がなくなりますので、本人は楽かもしれませんし、一見とても冷静で落ち着いているように見えます。

しかし、そういう人とは感情のやり取りが出来なくなりますので、付き合いがとても希薄になってしまいます。(映画の中のアリスが息子ジョーに対して感じたように)

ひょっとして、この映画は自分の幸福感を追求するがあまりに、化学的に作られたものに頼り簡単に幸福感を得ようとすることへの警鐘なのかもしれません。

最後になりましたが、映画の中の音楽は日本人作曲家で1982年に惜しまれながら亡くなった故伊藤貞司氏によるものです。和太鼓や琴、尺八などの和楽器を使った音楽は、“怪談”にぴったりで奇妙で怪しい世界に引き込んでくれます。

 

映画『リトル・ジョー』は、2020年7月17日(金)から全国順次ロードショー。