映画『Girl/ガール』バレリーナを目指す美しきトランスジェンダー あらすじ・感想(ネタバレなし)

2021年9月1日

『Girl/ガール』

あのカンヌ映画祭で旋風を巻き起こした作品『Girl/ガール』を観てきました!カンヌ映画祭では4つの賞を受賞し、また上映後は15分もスタンディングオーベーションが鳴り止まなかったとか。

これだけでも十分観る気まんまんになるかと思いますが、映画の描写がLGBTの人々を中心にかなりの数の賛否両論があり、そちらの面でも話題に。ハンカチ持参でぜひぜひ映画館へ足を運んでみて下さい。

写真出典:『Girl/ガール』公式サイト(C) Menuet 2018

『Girl/ガール』作品情報

原題:Girl

公開年:2018年

監督:ニコラス・ペッシェ

出演:ビクトール・ポルスター、アリエ・ワルトアルテ

上映時間:105分

映倫区分:PG12

『Girl/ガール』あらすじ

父親と幼い弟と暮らすトランスジェンダーのララは、新しい土地でバレリーナになるという夢を目指している。有名なバレエ学校への入学が認められ、そこで文字通り血のにじむ努力をする毎日。そんな中、ララは成長と共に男性としての体つきが顕著になっていくのに悩み苦しみ、父親のサポートのもと早期の外科的手術を望む。クラスメイトの心無い発言や恋する男性への思いなどに苦しみ、自分の身体に嫌悪感を抱くララが最後に決断したこととは・・・

(C) Menuet 2018

『Girl/ガール』主人公を演じるのはビクトール・ポルスター

『Girl/ガール』
写真出典:『Girl/ガール』公式サイト(C) Menuet 2018

主人公のララを演じるのはベルギー出身の男性ダンサー、ビクトール・ポルスター。

監督のルーカス・ドンは、彼が室内に入ってきた時

「ダンサー役のグループオーディションで、私は天使のような一人の少年が入室してくるのに目がとまりました。 彼は性別を超越した何かを持っていました。」 引用:lefigaro.fr

と言っており、当初はLGBTの女性を含めた役者たちをオーディションしていたのですが、なかなか適役が見つからず、ダンスクラスメイト役のオーディションに来ていたダンサーをもう一度見直した際にポルスターに目が留まった、ということだそうです。

ポルスターはキャスティング後に、発声練習、そしてトゥーを履いてのダンス(男性ダンサーはトゥーを履かない)の練習を一からすることなったそうで、男性ダンサーとして女性のダンスの動きを学ぶことはとってもリスキーだったとインタビューで答えています。

『Girl/ガール』感想

『Girl/ガール』
写真出典:『Girl/ガール』公式サイト(C) Menuet 2018

2018年5月、カンヌ国際映画祭でLGBT(lesbianレズビアン, gayゲイ, bisexualバイセクシャル, transgenderトランスジェンダーの頭文字をとってます)をテーマにした作品に与えられるクィア・パルム賞を受賞、その他に新人監督賞(カメラ・ドール賞とも言われます)、国際映画批評家連盟賞、そして、新人のベルギーダンサーで主役ララを演じたビクター・ポルスターに最優秀演技賞(ある視点部門)が贈られ、合計4部門で受賞するという快挙を成し遂げました。

スタンディングオーベーションが15分も止らなかったそうで、観客がこの作品を愛したのは明白ですが、その後一般公開されるとともにLGBT団体から監督ルーカス・ドンは非難の嵐をうけることに。

理由の1つとしては、主人公ララが男性の身体を嫌いホルモン治療を進める中で女性の肉体へ変化していく様子に執着した、という点だそうで、同じトランスジェンダーで映画批評家のオリビア・ウィットニーは、映画を「サディスト的で、トランスジェンダーを扱ったもので一番危険なメッセージを送りかねないものだ」と評しました。

『Girl/ガール』は危険な映画?

『Girl/ガール』監督
写真出典:『Girl/ガール』公式サイト(C) Menuet 2018
(監督のルーカス・ドン。↑めちゃくちゃイケメンですね。)

映画を2回観た私の意見としては、そうは思わないですね。

私自身はトランスジェンダーの人がまわりにいないので、彼らが実際にどういう思いで男性の肉体を持ちつつ女性になりたいと思っているのか、を想像するしか術はありません。

私の理解が正しければ、トランスジェンダーは男性の身体をもちながらも女性として生きたい、女性の身体になりたい、と思っているのだと思います。中身は完璧に女性なのです。それなのに、筋肉があって男性のものがあるんですよ。私たちは顔にニキビが出来ただけで早く取りたい、と思いますよね。間違いないでいただきたいのは、男性であることを否定しているのではないのです。ララが何が欲しいのか?という事が大事です。

例えば、学校に通うトランスジェンダーティーンの毎日を想像してみるとします。

映画のワンシーンで、担任の教師がララに目をつぶらせて「女子の中でララが女子更衣室を使うことに異議がある人は手を挙げて」と女子生徒たちにたずねるシーンがあります。また、バレエのレッスン後に更衣室で隣になった子から無理やりシャワーを浴びるように仕向けられシーンもあります。

また、ララの場合はダンススクールに所属していてレオタードのような身体のラインが出るものを着なくてはならないので、男性のものを目立たなくする下着を着けてはいるものの不安になりテーピングして目立たなくさせようとします。

これらのララに対する心無い発言やララの肉体的な苦悩や屈辱は、私は映画を観るまでは想像すら出来ませんでした。なんとなく大変だろうなぁ、ということは頭では分かっていても、実際具体的にトランスジェンダーがどんな苦労をしているのかはなかなか分からない、という人がほとんどで、それは当たり前のことなのです。

監督も、

「非難を受けることは何とも思わないよ。もちろん映画を擁護するのは大事だけど、今までこの問題に関して声をあげることが出来なかった人々の意見を聞く、ということもとても重要なことなんだ。僕にとってこの映画はトランスジェンダーを世の中に知ってもらうことであり、僕と映画を非難している人々もそういう気持ちは一緒だと思うんだ。僕は彼らとケンカするつもりはなくって、一緒に前に進みたいだけなんだ。」

とThe Gurdianのインタビューに答えています。

まさしくその通りで、この映画はトランスジェンダーのことを世の中の人々に知ってもらうことができた、それだけで大成功だ、と思うのです。

ララのモデルとなったノラ

また、彼はこの映画は、ララのモデルとなったノラの集大成だ、とも言っています。ノラと監督が出会ったのは彼が18歳でノラが15歳の時で、丁度ノラがバレエ学校で少女のクラスに編入しトゥーを履き始めて苦しんでいたときだったそうです。

監督自身はゲイですが、当時はまだカミングアウトしておらず、ノラに出会ったことで「本当の自分の姿でいる」という勇気をもらい彼の人生が変わった、とのこと。

ノラは脚本はもちろんキャスティングをはじめとする映画の製作に深く関わっており、ノラは映画を批判している人々に対して「私の人生はファンタシーじゃないのよ。ララのストーリーは私のストーリーなの」と映画を擁護する発言をしています。

ララと父親との絆

『Girl/ガール』
写真出典:『Girl/ガール』公式サイト(C) Menuet 2018

もう1つの見所はララと父親との絆です。父親はララの外科的手術を全面的にサポートします。ララが学校で起こった辛いことや、初めて恋をしたことなどに悩みどんどんと内に篭ってしまうのですが、父親は何とかしてララとコミュニケーションをはかろうとします。

こんな父親はなかなか居ないでしょうが、それでもララがダンサーの夢を追い生きてこられているのは、父親の存在が大きいのだ、ということ、つまりLGBTの人々には身近な理解者が必要なんだ、ということをこの映画は言いたかったのではないでしょうか?

映画の最後が衝撃的なのですが、それが「フィクションである」ということを忘れてはいけないと思います。

それは過剰表現だったかもしれません。しかし、トランスジェンダーの彼らが心の中に抱える闇はそれほど暗いものだ、ということなんだと思うのです。

日本では7月5日(金)ロードショーです。公式サイトはこちら映画『Girl/ガール』をどうぞ。

引用:The Gurdian