映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』勇敢なジャーナリストの実話 ネタバレ感想

2020年7月24日

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』

映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』は、1930年代に英国人ジャーナリスト、ガレス・ジョーンズがウクライナの飢餓問題を告発した実話に基づく物語です。

イギリスのイケメン俳優で時期ジェイムス・ボンドとの呼び声が高いジェイムス・ノートン、そしてNetflixの歴史ドラマ「ザ・クラウン」で若いマーガレット王女を演じたバネッサ・カービーが共演。

ここでは、映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』のあらすじ、キャスト、ネタバレ感想、そしてスターリンのジェノサイドとされるホロドモールについて歴史的事項にもふれながらご紹介します。

C)FILM PRODUKCJA – PARKHURST – KINOROB – JONES BOY FILM – KRAKOW FESTIVAL OFFICE – STUDIO PRODUKCYJNE ORKA – KINO ŚWIAT – SILESIA FILM INSTITUTE IN KATOWICE

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』作品情報

原題:Mr. Jones

監督:アグニエシュカ・ホランド

脚本:アンドレア・チャルーパ

出演:ジェームズ・ノートン、バネッサ・カービー、ピーター・サースガード

上映時間:118分

配給:ハピネット

映倫区分:PG12

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』あらすじ

1933年、ヒトラーへのインタビューで名前が知られるようになった英国人ジャーナリスト、ガレス・ジョーンズ。

彼は、世界恐慌の中、凄まじい経済発展を遂げつつあるソビエト連邦の秘密を探るべくスターリンへのインタビューを求め、懇意であった政治家ロイド・ジョージの協力を得て1人でモスクワを訪れた。

「秘密がウクライナにある」と聞かされたジョーンズは、モスクワでの監視の目を逃れウクライナ行きの汽車に飛び乗った。そこで、彼が目にしたものは飢えで苦しむ人々。何とかしてこの真実を世界に伝えようとするが様々な圧力がかかり・・・

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』キャスト

ジェームズ・ノートン(役名:ガレス・ジョーンズ )

ジェイムス・ノートン
写真出典:『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』公式サイト

役柄:ヒトラーへのインタビューで有名になった英国人ジャーナリスト。


冒頭にも書きましたが、最近「次のジェームス・ボンド」と噂されるジェームス・ノートンが主役です。
1985年生まれで現在35歳。ボンドには少し早いかなぁ、という気もしますが、それだけ最近注目度が上昇中!ということなのでしょう。

テレビドラマ「ハッピー・バレー」で極悪犯罪人を演じたかと思えば、「グランチェスター 牧師探偵シドニー・チェンバース」で牧師になったり、最近では映画『ストーリー・オブ・マイライフ/私の若草物語』で長女のメグと結婚する超真面目な教師役を演じたりと、様々な役を演じられる俳優さんです。

本作品でも真面目で一本気な実在した人物ガレス・ジョーンズを演じており、ポーランドの名匠アグニェシュカ・ホランド監督がこの役には彼しかいないと第一指名したそうです。*2

バネッサ・カービー(役名:エイダ )

ヴァネッサ・カービー
写真出典:『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』公式サイト

役柄:ニューヨーク・タイムズのモスクワ支局新聞記者。


Netflixドラマ「ザ・クラウン」で若いマーガレット王女を演じて以来数々の賞を受賞し一躍注目を浴びたバネッサですが、ドラマで演じたマーガレット王女もタフな女性でしたが、本作品でも当時にしては珍しいバリバリのキャリアウーマンで女性記者という気の強い女性を演じています。

彼女のあの大きな人を刺すような目が魅力的なんですよね。
2021年公開予定の話題作、映画『ミッション・インポッシブル7』に出演しています。

ピーター・サースガード(役名:ウォルター・デュランティ )

ピーター・サースガード
写真出典:『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』公式サイト

役柄:ニューヨーク・タイムズのモスクワ支局長。


あまり日本では知られていない役者さんですが、映画『ニュースの天才』のレーン役で名前が知られるようになり今ではハリウッドの名バイプレーヤーです。

本作品では、実在した人物でソビエト連邦の飼い犬となった新聞ニューヨーク・タイムズの支局長ウォルター・デュランティを演じています。

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』ネタバレ感想

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』
写真出典:『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』公式サイト

まず、初めに、本作品エンタメ性はゼロです。観てわくわくすることは絶対にありません。いや、どちらかと言うとかなり観ていて辛かったです。

しかし、観る価値は絶対にあります!
もう90年以上前に実際にあった話が基になってますが、今まで知らなかったことを知ることが出来、そして、現代において”ニュースとは”ということを考えるきっかけになると思います。

ホロドモール

私お恥ずかしながら、ホロドモールという言葉はもちろんウクレイナで起きた歴史的事実も知りませんでした。ホロドモールは、ホロコーストなどと並んで20世紀の最大の悲劇と言われているそうです。(ホロドモール=人工的大飢餓。ウクライナ語でホロド=飢餓、モール=苦しんで死ぬ、を意味するそうです。)*1

しかし、私の周りの欧米人に聞いても誰もホロドモールのことを知っている人はいませんでしたし、ガレス・ジョーンズという人物を知っている人もいませんでした。だからこそ、ホランド監督は、今こそ彼のこと、ホロドモールのことを知ってほしいと言っていたのかもしれません。*2

ガレス・ジョーンズ

本作品の主人公は、英国人ジャーナリスト、ガレス・ジョーンズ。
英国人で初めてヒトラーのインタビューに成功した人物で、1930年の世界大恐慌の嵐が吹き荒れるなか、なぜソビエト連邦だけが経済の発展を遂げているのか?と彼がその資金源に疑問を持ったところからお話が始まります。

出発前にガレスはモスクワにいるジャーナリストの友人に電話をかけますが、その際に友人が「もっとすごい秘密を手にした」と言った途端、電話が秘密警察によって遮断されます。そんなことは露知らず、ジョーンズはモスクワに渡りますが、すぐにその友人が殺されたことを知ります。

現代に生きる私たちは社会主義国がどのようなものか簡単に予想がつきますが、当時はもちろんインターネットもない時代。イギリスに住んでいるジャーナリストさえも、当局による情報統制や監視の目がどのようなものか知らなかったのですね。

その後、ニューヨーク・タイムズのモスクワ支局の新聞記者のエイダと親しくなり、彼女から「謎はウクライナに」と聞かされ、行動監視の目をかいくぐりウクライナにもぐりこむことに成功します。

ウクライナで起きていた大飢餓

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』
写真出典:『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』公式サイト

そこで彼が見たものは、真冬の厳しい寒さの中で飢えて死に倒れている人々。そして小麦が山積みでモスクワに輸出されている様子でした。

これは歴史的事実でありますが、なぜ、このような事態になったのか?ですが、当時スターリンは農業を集団化し国民に食料調達を強制化していたのです。日本で昔あった”年貢”のようなものでしょうか。

ウクライナは土地が豊かで小麦が収穫されていましたが、そこに目をつけたスターリンは、それを外貨獲得手段にしたのです。しかし、飢餓が起きてもウクライナの小麦は徴発されモスクワに輸送、海外に輸出され続けました。*3

映画の中では、めちゃくちゃ悲しい飢餓の歌を歌う村の飢えた子供たちにジョーンズが囲まれ、彼は撮影のチャンスとばかりに必死に写真を撮っていたら携帯していた食料を盗まれ、彼自身も飢えに苦しみ木の樹皮を食べ始めます。

カニバリズム

そして、空腹に耐えかねて子供たちだけで暮らす家に招かれ火で調理した肉を提供されるのですが、それが何とその兄弟の兄の人肉だった・・・というのは、衝撃的過ぎましたね。

どれだけ確固たる証拠があるのか分かりませんが、ウクライナではカニバリズムが堂々と横行し始め、警察の取締りが始まったころから公文書などの証拠が残っているそうです。*5

その1つ、1933年にウクライナに住む医者が友人に宛てた手紙でこういう一文が。*4
当時の状況が想像できる辛い内容ですね・・・・

 A woman doctor wrote to a friend in June 1933 that she had not yet become a cannibal, but was “not sure that I shall not be one by the time my letter reaches you."
引用:Bloodlands: Europe Between Hitler and Stalin

訳:「まだ人を食う人間にはなっていないが、この手紙があなたに届く頃にはなっていないという自信がない。」

プロパガンダ

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』語り
写真出典:『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』公式サイト

ジョーンズは、その後ソビエト連邦警察に捕まりますが、彼がイギリスの元首相デビッド・ロイド・ジョージと親しかったことが幸いしたのでしょう。ウクライナで見たことは忘れ口外しないこと、さもないと既に捕まっているイギリス人6人のエンジニアの命が危ない、と脅され無事釈放されます。

ニューヨーク・タイムズのモスクワ支局長、ウォルター・デュランティは、ウクライナの全ての事情を知っていながら人工飢餓を否定するようなプロパガンダ記事を書き続けていたのです。
きっと、スタンリー当局に脅かされていたのでしょうが・・・彼は悪魔に魂を売ったのです。

それだけでなく、彼は1931年頃に書いたウクライナについての記事をまとめたものでピューリッツァー賞を受賞しています。後に何度となく”デュランティから賞を剥奪するべきだ”という声が上がりましたが結局却下されました。

デュランティを演じたピーター・サースガードは、「ウォルター・デュランティという名前さえも口にするべきではない」と発言していましたが、それだけ嫌悪を持つ人物を演じるのってどういう気持ちなんでしょう・・・身が削られるような思いかと想像できますね。*6

告発記事

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』語り
写真出典:『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』公式サイト

イギリスに戻ってから、ジョーンズはウクライナでの飢餓を訴える声明を発表します。しかし、その後ニューヨーク・タイムズのウォルター・デュランティが「ロシアは食が足りていないが、飢餓ではない」というヘッドラインでジョーンズのリポートを”大げさに恐怖を煽っているだけ”と否定し貶めます。

そのうえイギリスの元首相デビッド・ロイド・ジョージからも「声明を撤回しろ」と言われます。
もともとデビッドの手回しでジョーンズは、モスクワに行くことが出来たわけで、デビッドにしてみたら顔に泥を塗られたのと同じことだったのでしょう。

デュランティの記事以来、ジョーンズの信用は無くなったも同然。
ウェールズに戻ってローカル新聞社の文化を扱う記事を書く記者として雇われますが、ウクライナまで行ったジョーンズがおとなしくしているわけがありません。

比較的裕福で権力がある新聞社のオーナーにとりつけ、なんとか告発記事を発表することが出来ましたが、それまでの緊迫感が最高に良かったです。ジェイムス・ノートン演じるジョーンズの苦悩の表情とかたまりませんでしたね~。

ロマンス

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』語り
写真出典:『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』公式サイト

バネッサ・カービー演じるエイダは、最後はニューヨーク・タイムズのデュランティにジョーンズの声明を否定する記事を書くように促され書きますが、その記事に”ボツ”のマークを自分で付けて去るシーンがカッコよかったですね。

彼女はこういう気の強い女性の役がぴったり!
そして、バネッサ演じるエイダの存在が、この重く暗い殆ど白黒に近い映画に色と艶を与えたと思います。

ただ、ジョーンズの家族はなぜかこのロマンスのストーリーラインに不服だそうです・・・*7

ジョーンズがなぜそこまでしたか?

映画を観た多くの人が、ジョーンズがなぜ、身の危険を負ってまでウクライナに行き、釈放前に脅されたにも関わらず告発記事を書いたのか?と思われたかと思います。(ちなみに、公に6人のエンジニアを人質に脅された、と告発したことで結果彼らの身を守ったそうです。)

1つは凡人からは想像できないほどの好奇心でしょう。

そして、ヒトラーなどにインタビューした経験から「この目で見ないと信用できない」という思いが強かったので現地に乗り込んだのでしょう。

そして「この目で見た」からには悲惨な現実・真実を伝えるしかジャーナリストとしての道はなかったはずです。それは正義感もあったでしょう。ただ、根本的な部分は、世間知らずな怖いもの知らずな性格が彼を押し進めたのだと思います。

しかし、結局はそれが災いし、ジョーンズはのちにモンゴルを視察旅行中にソ連の秘密警察に殺されてしまうのです。この部分は最後のテロップで語られるだけですが、その時彼は若干まだ29歳。本当に残念ですね。

まとめ

映画の中のニューヨーク・タイムズのデュランティがジョーンズの真実を伝える記事を否定する、という部分ですが、時代が移り変わっても悪の権力者がいる限りプロパガンダというものはなくならないのだなぁ、と感じました・・・

そして、フェイクニュースが溢れる昨今、ジョーンズが「自分の目で見た」ものを伝えていたということを忘れてはならないと思います。何を信じていいのか、どのニュースが操作された可能性があるのかを考えながら、今後は自分の頭で考えてながらニュースを読んでいきたいと思います。

重いテーマの映画でしたが、観る価値大です!勉強になった映画でした。

映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』は、2020年8月14日(金)から全国公開!

参考:
*1 https://holodomor.ca/resource/holodomor-basic-facts/
*2 https://www.youtube.com/watch?v=5RcuIaO5ftQ
*3 https://www.garethjones.org/overview/article03-1.htm
*4 https://web.archive.org/web/20130222065021/https://books.google.com/books?id=n856VkLmF34C&pg=&dq&hl=en
*5 https://web.archive.org/web/20111212193000/http://www.harrimaninstitute.org/MEDIA/01292.pdf
*6 https://www.youtube.com/watch?v=WPuvl1BMz0s
*7 https://www.channel4.com/news/film-director-agnieszka-holland-on-her-new-film-mr-jones-inspired-by-welsh-journalist-gareth-jones