「キオスク」原作の映画『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』あらすじ、ネタバレ感想 

2021年9月1日

『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』

映画『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』を視聴しました。ドイツ映画は素晴らしいものが多いのですが、本作品もとても良かった!何度も何度も観れそうな、優しく哀しい映画です。

ここでは、映画『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』のあらすじ、キャストの紹介、そしてネタバレ感想をお届けします。

(C)Tobis Film Petro Domenigg

映画『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』作品情報

原題:Der Trafikant

英語題:The Tobacconist

原作:Der Trafikant「キオスク」著:ローベルト・ゼーターラー

監督:ニコラウス・ライトナー

脚本:クラウス・リヒター、ニコラス・レイトナー

出演:ジーモン・モルツェ、ブルーノ・ガンツ、ヨハネス・クリシュ

上映時間:113分

配給:キノフィルムズ

映倫区分:R15+

映画『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』あらすじ

1937年、第2次世界大戦へ向けてナチスが台頭し始めるウィーン・オーストリアが舞台。

森林の豊かなアッター湖のほとりに母親と二人で暮らす17歳の青年フランツは、母親の昔の恋人、オットーが経営するタバコ店で働くためウィーンへやってきた。

常連客の1人である精神科医フロイト教授と親しくなったフランツは、人生を楽しみ恋をするように助言を受ける。ボヘミア出身の女性アネシュカに一目ぼれするも、アネシュカの奔放さに振り回され、純粋に悩む青年を優しく導くフロイト。教授とフランツは友情を深めていくが、ナチスの勢力は増し、ユダヤ人であるオットーやフロイトたちの周りにも不穏な空気が漂い始める。

映画『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』キャスト

ジーモン・モルツェ(役名:フランツ・フーヘル)

ジーモン・モルツェ
写真出典:『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』公式サイト

役柄:田舎出身の17歳の青年。

本作品では、ナイーヴな青年を演じてます。

ブルーノ・ガンツ (役名:ジークムント・フロイト)

ブルーノ・ガンツ
写真出典:『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』公式サイト

役柄:実在したオーストリアの精神分析科医ジークムント・フロイト。ユダヤ人。


スイスの名優ですがドイツの映画界で活躍。
2004年公開の映画『ヒトラー 〜最期の12日間〜』でヒトラーを演じたこともあります。本作品が遺作となりました。

ヨハネス・クリシュ(役名:オットー・トルスニエク)

ヨハネス・クリシュ
写真出典:『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』公式サイト

役柄:タバコ店主、ユダヤ人。


オーストリア出身。1987年以来40本以上の映画に出演しているベテラン俳優です。

映画『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』ネタバレ感想

『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』
写真出典:『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』公式サイト

精神分析学の父、ジークムント・フロイトと言えば”葉巻”のイメージが浮かぶ人も多いかと思います。彼は20代の頃からのヘビースモーカーで彼の多くの写真はいつも”葉巻”と一緒。そんなフロイトが英語題“The Tobacconist”(タバコ屋)という名前の映画に出ているのはぴったりかもしれませんね。

そして、そんなフロイトを演じているのはブルーノ・ガンツですが、2019年に大腸がんで亡くなっており、本作品は彼の遺作となります。

ガンツは、映画『ヒトラー 〜最期の12日間〜』でヒトラー役を演じていましたが、本作品では、ヒトラーの多くの被害者のユダヤ人のひとり、フロイトを演じています。

フロイトは、ナチスによるユダヤ人の迫害がひどくなってもしばらくは自分の国を去ることを拒んでいたのですが、1938年に弟子のアーネスト・ジョーンズの説得を受け、ぎりぎりでオーストリアを離れロンドンに亡命しています。

この映画では、ちょうどその前後、ウィーンでのナチスの台頭が激しくなり、ユダヤ人が迫害を受け初め、フロイト宅前にもゲシュタポが見張りをするようになったりといった暗い時代のお話ですが、青年の成長を描いたお話でもあります。

主人公のフランクは、森林の湖畔沿いの家に育ったごく普通のまだ何も知らない青年。現実を知らず、夢見がちな青年です。

そんな彼が大都市ウィーンのタバコ屋で働くことに。

タバコ屋の店主オットーは、戦争で片足を失っており一見無愛想ですが若いフランクにいろいろなことを教えてくれます。”タバコ屋が売るのは、味わいと快楽だ”と言い、彼に本物とは何かを教えます。

フロイトと青年フランクの友情

そこへ常連客のジークムント・フロイト教授が現れ、ひょんなことからフランクの良き師となります。

戦争の影が押し寄せる街中で、フロイトは若い青年に”恋をしろ””人生を楽しめ”と言います。
そして、ナイーブなフランクはフロイトに後押しされながら大人の階段を一歩ずつ進み、町で会った女性アネシュカに恋をするのです。しかし、なかなか自分の思った通りにはいかずフロイトは妄想に走るのですが、それがなかなか面白いです。

アネシュカとはただダンスをしただけなのに、ものすごいディープなキスをしている妄想。
アネシュカが男と一緒にいるのに居合わせて、現実では何も出来ないのに、妄想ではその男をカッコよくパンチ!

こういう妄想が可愛かったですね~。若い男の子(女の子も)みんな妄想しますよね。そこで、現実とのギャップに落ち込むのですが、そこで助けになってくれるのがフロイト。

さすが、精神分析学の父、女性の頭の中もよく理解してらっしゃる。

”女性は葉巻と似ている。強引に吸うと快楽は味わえない”。

うーーん、なんと的を得た綺麗な表現で思わずうっとりしてしまいます。

本来ならばもっともっと恋をエンジョイするべき年頃のフランクですが、激動の波が押し寄せ、嫌でも大人になるのを急かされ子供であることは許されなくなります。

ユダヤ人たちの迫害が始まり、タバコ屋でユダヤ人の店主オットーが近隣の店や住民から嫌がらせを受け始めます。そして仕舞いにはゲシュタポに連行されてしまいます。片足がないオットーにはなくてはならない松葉杖を持つことさえも許されず、彼は物のように扱われて連れ去られてしまったのです。

嫌でも大人にならなければいけなかったフランク

『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』
写真出典:『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』公式サイト

1人で店を守ることになったフランク。
オットーに言われた通りに店を営業します。物騒な世の中になっていく中で、若干20未満の青年が1人で店を守る。どんなに不安だったでしょう。

現実逃避をするかのように、フランクは心に残ったフレーズなどを紙に書いて店の前に貼っていくのですが、その様子が静かな抵抗のようでもあり、観ている私たちでさえ気づかないうちにあの青白かった少年が逞しい青年へと変わっていたのです。

なんとかして、オットーに松葉杖を届けようとするもゲシュタポがそれを許すはずもなく、無下に追い返されてしまいます。そして、彼の努力の甲斐もなくある日オットーの遺品がタバコ屋に届くのでした。

オットーが大事にしていた蓄音機で彼の大好きな曲をかけ、フランクはあることを決意します。

オットーが履いていた片足が短いズボンをナチスの旗を引き摺り下ろし代わりに旗のように掲げたのです。
そして、フランクはそうすることが自分の運命をどうすることになるのか、知っていたはずです。

彼は、若すぎた。純朴すぎた。そして、優し過ぎたのかもしれませんが、それでも彼は愛する人々に自分の生きた証を見せるために、権力に屈したくなかったのです。

最後は、涙なくしては観れません。

映画『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』は2020年7月24日(金・祝日)より全国公開!