『シェイクスピアの庭』映画のあらすじ・感想・トリビア情報まで
ケネス・ブラナーが監督・主演でウィリアム・シェイクスピアの知られざる晩年を描いた作品。
没後400年以上が経ってもいまなお愛され続ける数々の名作を生み出した天才劇作家・詩人であるウィリアム・シェイクスピア。
この映画は彼のプライベートをあぶりだし、彼の家族との関係、亡くなった息子に対する想い、そして噂されている彼の性的志向などにも触れつつ、彼が断筆してから亡くなるまでの3年間を描いたもので、えっ、ウィリアム・シェイクスピアの私生活ってこんなだったんだ!と思わず彼を身近に感じずにはいられない、人間味溢れる家族の再生のお話です。
写真出典:『シェイクスピアの庭』公式サイト
『シェイクスピアの庭』作品情報
原題:All Is True
公開年:2018年
監督:ケネス・ブラナー
出演:ケネス・ブラナー・ジュディ・デンチ・イアン・マッケラン・キャスリン・ワイルダー・リディア・ウィルソン
上映時間:101分
映倫区分:G
『シェイクスピアの庭』あらすじ
1613年シェイクスピアの作品『ヘンリー八世』の上演中、舞台の大道具として使用した大砲が屋根に誤って引火し、ロンドンのグローブ座は全焼する。
その後、まだ49歳だったにもかかわらずシェイクスピア(ケネス・ブラナー)は断筆をし、家族が住む故郷へ帰るものの、家族から離れて仕事に没頭していたシェイクスピアは彼らにとっては他人も同然だった。
8つ年上の妻アン(ジュディ・デンチ)と長女のスザンナ(リディア・ウィルソン)、そして未婚の次女ジュディス(キャスリン・ワイルダー)との関係修復に苦労し、また、シェイクスピアは17年前に亡くしたジュディスの双子の弟ハムネットの死から未だに立ち直れずにいた。その苦しみから逃れるように、息子のために弔いの庭を造り始める。
そんな中、家族たちが長年彼に対して秘めた想いや、家族それぞれが抱える悩みが次第に露になってくる。
そして、そこには彼が知る由もなかった驚愕の真実があるのだった。
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『シェイクスピアの庭』キャスト
ケネス・ブラナー(役名:ウィリアム・シェイクスピア)・監督
写真出典:『シェイクスピアの庭』公式サイト
天才劇作家・詩人ウィリアム・シェイクスピアを演じるのは、1960年生まれアイルランド出身の役者・監督のケネス・ブラナー。23歳でウィリアム・シェイクスピア・カンパニーに入団し、『ヘンリー五世』、『ハムレット』、『ロミオとジュリエット』、『お気に召すまま』、『から騒ぎ』、『夏の夜の夢』、『リア王』、『ハムレット』、『リチャード三世』、『マクベス』、『冬物語』など数多くのシェイクスピアの舞台に立つ。
また、1989年から監督も務め最近では2017年の『オリエント急行殺人事件』で、この映画でもジュディ・デンチと共演している。
ジュディ・デンチ(役名:シェイクスピアの妻・アン)
写真出典:『シェイクスピアの庭』公式サイト
彼女もシェイクスピアに縁がある大女優で、1957年『ハムレット』オフィーリア役でデビュー。そして1998年には『恋におちたシェイクスピア』でエリザベス女王を演じ、アカデミー賞とBAFTAで助演女優賞を受賞した。
その他にもローレンス・オリヴィエ賞、トニー賞などを受賞しており、また、イギリス王室からは長年の演劇界への貢献が認められDame(デイム)の称号を授与されるなど輝かしい功績を持っている。現在85歳ですが、まだまだ現役です。
『シェイクスピアの庭』感想
写真出典:『シェイクスピアの庭』公式サイト
実在する人物の場合、つい考えてしまうのが、どこまでがノンフィクションでどこからがフィクションか、ということですが、この年代、シェイクスピアの場合は1564年-1616年で出生証明書もない時代ですので、彼の誕生日も洗礼された日を誕生日としており、はっきりとしていないものです。
なので、ある意味、ついつい歴史的事実の答え合わせをしてしまいがちの私ですが、この作品の場合特に気になることもなく、シェイクスピアの晩年の人生を想い馳せることが出来ました。
ある批評家たちは、シェイクスピアと妻のアンの歳の差が8歳なのに、ジュディ・デンチでは歳を取り過ぎている(実際、ジュディ・デンチとケネス・ブラナーの歳の差は26歳!)という声も耳にしましたが、私は視聴者に分かりやすくする意味でも効果はあったと思います。それに、ジュディとケネスの息がぴったりと合った演技。さすが、の一言でした。
また、当時のコスチュームも女性の視聴者なら興味津々だと思います。決して華やかな衣装ではありませんが、当時を彷彿させるドレスや帽子、髪型。簡単に当時にタイムスリップしてしまいました。そしてシェイクスピアの家の中を灯すキャンドルライトなど全てにリアリティ感があり、スクリーンに釘付けになってしまいます。
写真出典:『シェイクスピアの庭』公式サイト
実際に、監督のケネス・ブラナーは、室内の夜の設定の撮影ではセットライトは一切使わず、本物のロウソクのひかりだけで撮影したそうです。
若い頃からシェイクスピアに魅せられ、数々のシェイクスピア劇にも出演し、自らもロイヤル・シェイクスピア・カンパニー出身のケネス・ブラナーのこだわりが映画全体に表現されています。
シェイクスピアはゲイだった?
写真出典:『シェイクスピアの庭』公式サイト
そして、私が一番のお気に入りのシーンが、サウサンプトン伯爵(イアン・マッケラン)がストラトフォードのシェイクスピアの家を訪ね暖炉の前で二人が語り合う場面です。
シェイクスピアが書いたソネット(詩)集の第一部 “fair youth" は、若い男性に向けて書かれたものなのですが、ここでは(解釈はいろいろあるようですが、映画の中では)サウサンプトン伯爵に向けて書かれたものとされています。(実際のところ誰に向けて書かれたものなのかは色々と推測の域を出ていないようです。)
シェイクスピアが、「いつか伯爵が私の愛に応えてくれるのだろうか」と言うと、サウサンプトン伯爵が「自分の立場をわきまえろ、君は私を愛する身分ではない」ということを言います。(実際の字幕訳は少し違うかもしれません。私は英語でしか映画を見てないので、私の訳ですみません。)
その時のケネス・ブラナー演じるシェイクスピアの苦悩に満ちた顔。
しかし、彼に気を持たせるかのようにサウサンプトン伯爵もソネット29番を暗誦し始めます。イアン・マッケラン演じるサウサンプトン伯爵の風貌は大きな鼻で皺だらけの顔なのですが、その時の伯爵の権威に満ちた力強い態度があまりにも美しくて息が止まりそうになりました。
この部分は、シェイクスピアが同性愛者であるかもしれない、というぬぐいきれない噂をもとに書かれたのかと思いますが、決して下世話なニュアンスではなく、サウサンプトン伯爵に対する敬愛に近い愛情を美しいソネット29番を通して映画は表現していたと思います。
シェイクスピアの家族との関係・再生
写真出典:『シェイクスピアの庭』公式サイト
そして、この映画の一番のテーマは、もちろん「家族」。
お話は、まず、妻のアン、そして特に次女のジュディスがどれだけシェイクスピアに嫌悪感を抱いているかにフォーカスしていきます。実際にジュディスについては、参考文献がないと思われますので、彼女の性格については脚本家の脚色によるものだと思います。
映画の中のジュディスは、気が強いフェミニスト。
古い考えを持つ世の中の体制、そして、それを代表するかのような考えを持つ父親に対して強く反発する性格ですが、うーん、、、当時にそのような女性が存在したとは思えない、と私は思います。
しかし、フェミニズムのコンセプトは現代の映画を見ている私たちにとっては共感しやすく、またジュディスを演じるワイルダーの素晴らしい演技のおかげで特に違和感を感じることなく見れました。
当時の一般女性は、教育を受けていなかったため、妻のアンも娘たちも読み書きが出来ません。次女のジュディスは(DNAなのでしょうか!)、詩人のような感性、そして文才に恵まれています。それを知ったときのシェイクスピアの信じられない!という驚愕の表情が全てを物語っていました。
シェイクスピアは、ジュディスに女性軽視的な考えをとがめられると、彼は家庭を顧みなかったことに後ろめたさを感じつつも、「俺の才能で食わせてるんだ」的な発言をします。
そこで、私は彼の書いた、「ヘンリー五世」、「から騒ぎ」、「ハムレット」、「ロミオとジュリエット」などの作品を思い起こしながら、「そうね、すっごい儲けたんだろうなぁ」「家族は裕福な暮らしだったんだろうなぁ、それならいいじゃん。」と思ってしまうのですが、実際の彼の家族にしてみたら、彼が不在の間は寂しくて仕方がなく、彼の愛情に飢えていたのだろうと思います。
映画の最後は、シェイクスピアが亡くなる前に家族と絆を強めるというハッピーエンディングで終わりますが、彼の実際の人生もそうだったらいいな、と思わずにはいられませんでした。
ハムネットの死の謎
写真出典:『シェイクスピアの庭』公式サイト
そして、もう1つの見所は、息子ハムネットの死に関わる謎、です。ここではネタバレしませんので、観てのお楽しみです。
映画の始まりはゆーーっくりです。どうか、まずは映画の風景、コスチューム、メイク(イアン・マッケランとケネス・ブラナーの大きな鼻!)などの雰囲気を楽しんでみてください。中盤辺りから、彼と家族の苦悩が明らかになりつつ、娘たちの恋愛・結婚模様などはスキャンダラスな面もありゴシップ感があって軽く楽しめる部分もあります。
あー、あんな偉大な天才の家庭環境がこんなだったんだ!と驚くこと間違いなし。そして、彼の苦悩を知るにつれて、ウィリアム・シェイクスピアが更に身近に感じることでしょう。
日本では2020年3月6日より全国順次ロードショー!
『シェイクスピアの庭』トリビア情報
写真出典:『シェイクスピアの庭』公式サイト
- 次女のジュディスは、当時にしては遅く(映画の中ではSpinsterという単語が出てきます。いつまでも結婚しない女性という意味)31歳で居酒屋を経営していたトム・クワイニーと結婚する。3人の子どもを儲けるも3人とも幼くして死去。
- トム・クワイニーは、婚前に付き合っていた女性を妊娠させていたことが分かり、それが理由でシェイクスピアは彼を相続対象からはずした、と言われている。
- 『ヘンリー八世』は、当初サブタイトルが付いており「All is True(全てが真実)」として発表された。劇のプロローグでは、「真実を目にされようとお金を払ったかたがたは、そのお望みが満たされます」とあったそう。ちなみに英語でのこの映画のタイトルはAll Is Trueです。
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